規制緩和が市況悪化の主因ではない
まず、ガソリン市況の悪化要因として指摘されることが多い特定石油製品輸入暫定措置法(特石法)の廃止をはじめとする規制緩和の影響については、市況悪化の要因ではなくきっかけの一つに過ぎないと考えられます。
日本の石油産業の規制緩和は、87年度から91年度にかけての時期と、96年度から01年度にかけての時期に実施されました。ガソリン市況が悪化に転じた94年後半には規制・制度の変更はなされていません。特石法の廃止や石油販売業界への参入規制が撤廃された96年4月にはガソリンと灯油・軽油との価格差はほとんどなくなっていましたし、ガソリンの輸入量が増加したわけでもありません。
ガソリン市況が悪化したのは、石油精製設備に関する規制が緩和されたのをきっかけに、それまで不足していた分解装置や改質装置など二次精製設備を中心に、石油精製設備の能力が急速に拡大された結果、過剰設備を抱えるようになり、原油処理枠やガソリンの生産枠が撤廃されたことと相まって、過剰供給がなされるようになって、需給が崩れたためと考えられます。
精製能力と国内市況との相関関係は強い
石油製品の国内市況と石油精製設備の能力との間には強い相関関係が見られます。ガソリンのマージンが改善傾向で推移した99年度から00年度にかけて、および、03年度から04年半ばにかけての時期には、製油所の統廃合や設備の集約、サルファフリー化に伴う脱硫設備の能力不足や輸入圧力の低下などによって、ガソリンの供給能力が縮小傾向で推移していました。また、06年度の市況改善局面でも、製油所の事故・トラブルの続発によって、事実上、精製能力が縮小していました。
上記以外の時期には精製設備の能力は削減されていませんが、その大半の期間において、ガソリンなど石油製品の市況は悪化傾向で推移しています。
販売事業者・SSの数と市況との関連性は薄い
ガソリン市況の低迷要因として販売事業者やSSの数が多いからとの指摘がよくなされています。数が多すぎるので過当競争状態にあるとの論法です。
本当に販売事業者やSSの数と市況との間に関連があるのでしょうか?私は、ガソリン市況と販売事業者やSSの数との間にほとんど関係はないと考えています。
ヨーロッパの主要国では、60年代末から70年代初頭にかけてSS数はピークをつけ、イギリス、フランス、ドイツではいずれも3分の1以下にまで減少したにもかかわらず、依然、減少に歯止めがかかっていません。日本でも、SS数は95年に減少に転じ、95年3月末から07年3月末にかけて22%減少しています。販売事業者の数は84年3月から07年3月末までの間に35%余り減少しています。
もしも、市況とSS数との間に関係があるのなら、ヨーロッパ諸国でも日本でも、ガソリンの市況は改善傾向で推移し、収益も良くなっていなければいけませんが、この間、いずれの国においてもガソリンの市況は悪化と改善を繰り返しています。
また、SSや販売事業者の数が減れば、1SS当たりの販売数量が増加するので、収益性が改善すると思われがちですが、収支にもっとも大きな影響を与えるのは市況ですから、この間に、石油販売業界の収益状態も悪化と改善を繰り返しています。
販売店の数と収益との間に大きな関係がないことは、石油販売業に関わらず、ほとんどすべての業界において実証されていることです。数が減少しても、残った店や販売事業者の間で競争が繰り返されるからです。
例外は、安売業態の店の数です。安売店が増加すると明らかに製品の価格が下がりやすくなるからです。
石油業界の収益環境を良くするも悪くするも元売次第
石油販売業界において、安売業態の展開に最も積極的なのは、安売量販タイプが主流の大型セルフを積極的に展開している元売です。元売関係者には辛らつな指摘と思われるかもしれませんが、規制緩和後に過剰設備を形成してしまったのも、過剰設備への対応が遅れているのも、安売量販タイプのセルフSSの数を増やしているのも元売です。元売が収益環境を悪化させているといっても過言とは言い切れないのです。
個々の企業が市場全体の価格をコントロールすることはできません。市況を最も大きく左右するのは需給です。需給を引き締め、安売業態の出店を止め、差別対価や直営店による廉売など合理的ではない販売政策を是正しなければ、抜本的に収益環境を立て直すことはできないでしょう。業界関係者の一部に、収益環境が悪化すれば、事業者やSSの再編淘汰が進むので、その後、収益環境が改善すると考える向きがあるようですが、この考え方がいかに理にかなっていないかを理解していただきたいのです。
石油製品は規格化された必需品です。必需品は価格と需要との間にほとんど相関関係はありませんので、価格を下げたからといって需要が増加することはありませんし、価格が高騰したからといって需要が急減するわけでもありません。これは、ガソリンの小売価格が乱高下しているにもかかわらず、国内需要の変動幅が年率では2%程度、月次でみても数%にとどまっていることからも容易に想像できるでしょう。
近年、ようやく、元売が市況是正の先導役を果たすケースが見られるようになってきました。やや遅きに失した感はありますが、これからも、この役割を果たし続けていただきたいと思います。収益環境を悪化させるのは簡単ですが、改善させるのは簡単ではありません。付加価値を創造できないマーケティングは収益の拡大にはつながらないことを理解して、速やかに収益環境の是正を図っていただきたいと願うばかりです。
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