原油価格は高値調整局面へ
まず、原油価格の見通しですが、ニューヨークのNYMEX、ロンドンのIPEなどの原油・石油製品先物取引市場に巨額の投資資金が滞留していますので、08年も大きな値動きが続くと予想されます。ただし、07年は1月に1バレル約50ドルまで下落した後にほぼ一本調子で100ドル近くまで上昇しましたが、08年は高値調整局面に入ると予想しています。需要、供給の両面で原油の需給緩和につながる変化が見込まれるからです。
需要面では、08年に、温室効果ガスの削減を取り決めた国際条約である京都議定書の約束期間(08年度〜12年度)に入るのに合わせて、先進諸国で省エネ、並びに温室効果ガスの排出量を抑制するための規制や制度が拡充される見通しです。また、エネルギー価格の高騰を背景に省エネのインセンティブが高まっており、中国など発展途上国でも省エネ投資が活発化しています。これらの効果によって、仮に、世界経済が順調に成長したとしても、エネルギー、中でも温室効果ガスの排出原単位が高くコストも割高な石油の消費が抑制されると予想されます。さらに、米国における信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)の破綻問題が深刻化するなどして世界景気が減速するようなら、世界の原油需要が減少する可能性もあると考えられます。
ちなみに、日本では、二度にわたるオイルショックを契機に原油価格が高騰し、省エネ・脱石油策が導入された70年代末から80年代初頭にかけて、経済が順調に成長し続けたにもかかわらず、一次エネルギー供給量が79年度から82年度にかけての3年間に11%、石油製品の消費量は78年度から82年度にかけての4年間に26%減少したことがありました。米国や、高い経済成長、モータリゼーション、生活水準の向上などを背景にエネルギー需要が急増している中国、インドなどは日本や欧州諸国に比べて省エネが進んでいませんので、エネルギー需要の伸びが減速する可能性は十分にあると思われます。
一方、供給面では、原油価格の高騰をきっかけに原油・天然ガスなどの増産に向けた投資が活発化していましたが、その影響で08年には原油の生産能力が前年に比べて3%程度、LNGにいたっては20%以上増加する見通しです。この結果、原油の需給緩和が予想されますが、原油の価格トレンドは需給を反映する傾向が見られますので、需給が緩むと価格の下落が促される可能性があります。
開発・生産コストや収益性など経済的価値で議論できる原油の経済的価値は、カナダのオイルサンド、ブラジル沖の深海油田、小規模なガス田などコストの高い原油・天然ガスの開発・生産コストが1バレル40ドル程度ですので、マージンを上乗せしてもせいぜい1バレル50ドル前後と推察されます。したがって、原油価格の下落局面では一気にこの近辺まで下落する可能性があります。私は、08年の原油価格は、やや大胆かもしれませんが、WTI原油ベースで、年前半まで70ドル台から90ドル台で推移した後、年後半から09年にかけて50ドル台から70ドル台まで低下すると予想しています。
石油製品の国際市況は08年半ばから悪化へ?!
石油製品の国際市況は08年半ば以降に悪化に向かう可能性が高いと思われます。アジア・中東地域を中心に世界各地で石油精製設備の大規模な新設・増設・高度化などが進められており、08年後半から09年にかけて精製能力が急増する見通しだからです。これにより、仮に石油製品や基礎化学品の需要が伸び続けたとしても、08年後半以降に一時的に需給が緩和すると見込まれます。もしも、省エネや他エネルギーへのシフトなどによって石油製品の需要の伸びが鈍化すると、需給緩和の動きがさらに加速して、マージンが急落する可能性すらあるでしょう。
石油精製各社の対応は地域を問わずほぼ同じです。現在、世界各地で建設が進められている新鋭製油所は、いずれも、原油の重軽格差の拡大や分解・改質・脱硫など二次精製設備の能力不足を背景に需給が逼迫気味で採算も良い低硫黄軽質油や、需要が急拡大しているベンゼン、パラキシレンなど芳香族製品の生産得率が高い設計になっています。また、二次精製設備の増強も各地で一斉に進められています。この結果、現時点において採算の良い製品ほど近い将来、需給が緩和されて、採算も悪化しやすくなると予想されます。
なお、原油と石油製品の先物取引は裁定取引によって相互に影響しあっていますので、石油製品のマージンが縮小すると原油価格が下がりやすくなり、原油価格の低下局面では石油製品のマージンが縮小しやすくなることにも注意する必要があるでしょう。
石油産業全体の収益環境は厳しくなる?!
石油製品の国内需要は、天候に恵まれない限り、08年も縮小し続けるでしょう。工業用・業務用では、都市ガスのシェアが一段と高まると予想されます。ガスコージェネレーションシステムの普及、ユーザーの環境意識の高揚、都市ガス供給エリアの拡大、原油高による価格競争力アップなどによってガスの優位性が高まっているからです。一方、家庭用では、機器・システムの機能および性能の向上、安全性・清潔性の高さ、値下げや原油高による価格競争力アップなどによって省エネ住宅とのマッチングも良い電気製品が、暖房、厨房、給湯などの用途で一段とシェアを拡大すると予想されます。石油業界がエコフィールなど戦略商品の普及を図っても、ガス化、電化の流れを食い止めるのは容易ではありません。このため、08年も国内需要の拡大が見込める石油製品は、ジェット燃料油と石化原料に限られる見通しです。
石油製品の内需の減少に対応するため、日本の精製・元売各社は、石油製品輸出の拡大と石油化学製品へのシフトを進めようとしています。この経営戦略は中長期的には妥当と思われます。石油製品の国内需要の減少が続くと予想される一方で、海外では中国やインドなど発展途上国を中心に経済成長や生活水準の高度化によって石油製品や石油化学製品の需要が拡大傾向で推移すると予想されるからです。実際、05年度以降、輸出の拡大と石化シフトによって内需の減少が一部カバーされ、国内市況の悪化をある程度防ぐことができていると考えられます。しかし、前述したような需給緩和のシナリオが実現して、石油製品の国際市況が悪化したり、基礎化学品のマージンが縮小したりすると、国内の需給バランスが崩れやすくなり、石油製品の国内市況を維持することがより難しくなってしまうと予想されます。
なお、石油製品のガスや電気に対する価格競争力が低下した理由の一つは原油高でしたし、08年は、LNG、石炭の輸入価格が原油に対して上昇すると予想されますが、原油価格が1バレル40ドル以下の水準まで低下しなければ、石油製品が価格面での優位性を回復するのは難しいと思われます。
石油製品や基礎化学品のマージンが縮小すると石油精製事業の収益も悪化しやすくなります。また、原油価格が下落すると石油・天然ガス開発事業の収益は縮小します。このため、石油精製・元売の08年度の業績は前年に比べて悪化する見通しです。特に、在庫を総平均法で評価している会社では、在庫評価による利益への影響が反転して、収支が著しく悪化する可能性があります。
原油価格が下落すれば、石油製品の卸売価格も低下しますが、それによって石油販売業の経営が楽になるとは限りません。むしろ、過去の経緯から見て、原油市況が下落傾向に転じると、ガソリンなどの市況商品のマージンも縮小しやすくなると考えられます。また、原油価格が下落に転じると値上げ交渉が難しくなりますし、下落局面では売り上げが減少して資金ショートを起こしやすくなります。したがって、石油販売業の経営者の皆様には、これまで以上に市況是正への取り組みを強化したり、資金管理に留意したりしなくてはいけなくなるとお考えいただきたいのです。
なお、複数の元売が、直販シェアの上昇によって小売マージンの変動が収益に与える影響が大きくなったこと、内需の減少を認識したことなどから、販売数量より採算を重視するようになってきました。06年、07年には、小売マージンの低迷時に元売販社が市況是正のリード役を果たしたケースが見られましたが、08年においても、小売市況の低迷が続くと元売が積極的に市況の立て直しを図ろうとすると予想されます。
石油販売事業者は自立意識をより強くすべき
SSでは、近年、ガソリンや燃料油の販売数量、損益分岐点コスト、油外収益、油外収益人件費カバー率などの経営指数が良好でも、資金不足に陥ってしまうケースが増えています。低マージンで量販を志向しているSSほどこの傾向が強くみられます。ガソリン・燃料油のマージンが縮小してきたこと、業界全体のガソリン・燃料油の販売数量が減少してきたこと、元売の直販志向の高まりや大手事業者の拡販によって一般特約店・販売店のシェアが低下してきたこと、取引先の経営悪化などから資金回収が滞るケースが増えてきたこと、これまで低下傾向にあった人件費や諸経費が上昇してきたことなどが、その主な理由と考えられます。08年は、これらの傾向がさらに強くなっていくと予想されます。
石油販売事業者の多くは、資金不足に陥ると元売や金融機関に協力を求めています。これはこれまでの取引関係からすると当然と思われる対応ですが、状況は大きく変化しています。ほとんどの元売は、系列取引先、SSともに数が多すぎるので、再編・集約・選別の必要があると考えていますし、金融機関の石油販売業界に対する信用評価が低下しているからです。元売や金融機関を過度に信頼して経営支援を求めるのは、半ば自殺行為に等しいと考えなくてはいけません。石油販売事業者は自立意識をより高まる必要があります。
石油販売業は、経営者の真価がより問われる年に
ガソリン価格が高騰したのに伴って、石油販売業界全体では油外収益が減少していますが、07年に油外収益を拡大することに成功した販売事業者やSSもあります。そのほとんどが顧客サービスの質が高いSSです。
お客様の選択は、割安さと満足度によって左右されます。割安さとは、サービス、利便性、親近感などさまざまな条件を踏まえた上での値ごろ感のことです。そして、お客様は、利用した際の満足度によって、次回以降もその会社や店を利用し続けるか、他に乗り換えるかなどを判断します。会社や店の立場からすると、より多くのお客様により大きい満足を与えることができるかどうか、そして、その結果、選んで利用していただいているお客様(顧客)を増やすことができるかどうかによって、業績は左右されることになります。これがCS(顧客満足)の基本概念で、収益を拡大するためにはCSを高めるための工夫と努力が欠かせないのです。
CSを高まるためには、お客様にサービスを提供するスタッフが、仕事の内容、目的、重要性などを正確に理解し、自ら仕事や待遇などに満足していることが重要になります。仕事を理解せず、待遇に不満を感じているスタッフがお客さんを満足させることができるとは思えないからです。よって、会社が業績を拡大したいのなら、お客様にサービスを提供するスタッフが満足できるような環境を作っていかなくてはいけません。これがES(従業員満足)の基本的な考え方です。
しかし、私は、お客様や従業員をもっとも満足させることができるのは経営者だと考えています。
業績を拡大するためには、サービスの質を向上して、より多くのお客様に満足していただかなくてはいけません。そして、そのためには、従業員・スタッフが満足できるような環境を実現しなければいけません。経営者がこのような経営思想を持っていなければ、お客様を満足させられるような状況を作り出せるとは思えません。見方を変えると、成果を上げたときに、経営者に高く評価され、さらに、それが待遇に反映されれば、従業員・スタッフの満足度はさらに高まり、仕事の質に反映されます。サービス業における成果は経営者次第でどうにでもなるといえるのです。
サービスの質は、ほんの数日でも気を緩めたり、向上意識がなくなったりすると、著しく低下してしまいます。SS業界においても、近年、何年もかけて築き上げてきた素晴らしいサービスがあっという間に崩れてしまった例が見られるようになりました。販売数量を拡大しようとして安売りに走ってしまったケース、省サービス型のセルフサービスSSに転換してしまったケース、経営陣の意欲が低下してしまったケースなどです。これらは経営者の判断と行動によって避けることができます。
経営環境が厳しくなったとしても、石油産業の重要性が低下するわけではありません。08年は、経営者の真価がより問われる1年になると私は考えています。
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