需給によって左右される価格トレンド
近年の原油の価格トレンドは需給をほぼ正確に反映している。90年代以前に比べるとシェアは低下したものの依然スウィングプロデューサーとしての役割を担っているOPECの原油生産量の伸び率の動きを見ると、原油価格が上昇傾向で推移していた03年から05年半ばにかけては前年実績を5%前後上回る高い伸びを示していたが、調整局面にあった05年下半期、および、下落傾向で推移していた06年半ばから後半にかけては前年並みか前年実績を下回っていた。そして、今年1月半ば以降は天候影響などで需要の伸びが回復したことなどから需給が再び引き締まり、油価も再び上昇傾向に転じた。このような需給を反映したトレンドに、天候、景気、事故・トラブル、地政学リスク、為替、投機、在庫の増減などがアクセントをつけていると考えると、値動きが解釈しやすい。
なお、NYMEXやIPEなどの先物取引市場における投機の影響について、投機資金の「流入は高騰、流出は下落」の端的に論じられることが多いが、これは誤解だろう。先物市場は買いだけではなく売りからも入れる。また、買いから入ると決済する際に売り戻さなくてはならず、売りから入ると買い戻さなくてはいけないので、投機資金の流入が直接価格を押し上げるわけではない。現に昨年後半の原油価格の下落局面において原油先物市場では出来高、建て玉ともに増加していた。投機資金流入の影響は「価格の振幅が大きくなり、その商品だけの事情で価格が変動するわけではなくなった」と考えるのが妥当だ。
価格高騰時にのみ盛り上げる資源制約論
第一次オイルショック、第二次オイルショックの際には、その当時の原油の確認可採埋蔵量と年間消費量から算定した可採年数を根拠に「原油はあと30年で枯渇する」と大騒ぎになった。同様の推論は湾岸紛争時にも唱えられた。そして今回も「ピークオイル説」として資源制約論が復活し、原油価格の高騰を正当化する一因となった。
価格低迷期には生産・供給設備の新増設計画が中止されたり遅滞化したりする。原油価格が1バレル10ドル台から20ドル台で推移していた80年代半ばから90年代末にかけて新規開発・探鉱が明らかに沈滞化していたが、そのような時期に需要が増加すれば、当然、需給は引締り、確認可採埋蔵量も増加しないので、資源の枯渇を連想させるような状況に陥りやすくなる。
一時的に緩和する可能性がある原油の需給
ところが、原油価格が高騰するに従って、原油・天然ガスの開発が積極的に行われるようになった。膨大な埋蔵資源量が確認されていたにもかかわらず開発コストが高く産出原油の質が低かったため長年にわたって半ば放置されていたカナダのオイルサンドをはじめとする高コストなビックプロジェクトも相次いで始動。08〜10年は原油の生産能力が年率3%前後伸びる見込みだ。原油以上に需要が急増しているLNGの生産能力は07年に前年比12%、08年に同28%増加する見通しで、天然ガスの増産に伴ってコンデンセートの供給能力も二桁増ペースを維持する見込みである。価格が上昇すれば、損益分岐点も上昇する。可採埋蔵量と価格に相関関係があることを考慮する必要があるだろう。ちなみに、原油が向こう100年以内に枯渇すると考えている有識者はほとんどおらず、石油・天然ガスの資源に関して圧倒的な知見を有しているメジャーズは、今回の原油価格高騰局面で、開発権益の新規取得にほとんど興味を示していない。
原油や天然ガスの開発ペースが加速する一方で、需要の伸びが鈍化する可能性を示唆する声もでてきた。エネルギー価格の高騰によって省エネの経済合理性が高まってきたこと、地球環境問題への関心が高まってきたこと、不動産バブルの崩壊などによる米国景気減速観測がでてきたことなどだ。また、08年度に京都議定書の評価が開始されることもあり、先進諸国で、省エネ、化石燃料消費の抑制、CO2排出原単位の低いエネルギーへのシフトなどを促す制度の導入が進められており、米国では自動車の燃費規制が史上初めて導入される。これらが原油の需要伸びを一時的に抑制する可能性は十分にあるだろう。
供給・需要両面で今後予想されるこれらの動きを勘案すると、近い将来、原油の需給は一時的に緩和し、これが価格トレンドを下落方向に転じさせる可能性があると推定される。原油価格の下落が原油の需給を緩和させ、価格の下落をさらに促すような状況を作り出す可能性もある。金額は価格と量の乗数なので、価格の低下を量の拡大によってカバーしようとする動きが起きやすくなるからだ。これは80年代から90年代にかけての原油価格急落局面でよく見られた動きだ。近年の資機材価格高騰の影響を考慮しても、オイルサンドに代表される高コストプロジェクトの開発・生産コストはせいぜい1バレル30数ドルに過ぎない。コスト面からみた底値の目途は1バレル40ドル以下と推察される。
商品市況が一方向に動き続けることはない
石油精製設備、基礎化学品などの生産設備の増強ペースも加速している。特にアジア・中東では、製品輸出を目途とした巨大製油所がインド、サウジアラビア、カタールなどで08年後半に相次いで新規稼動する予定で、中国、韓国、タイ、ベトナム、シンガポールなどでも08年後半以降に稼動予定の製油所の新設、原油処理能力の拡張、精製設備の高度化等の計画が進められている。原油と石油製品の価格は先物市場における裁定取引で影響しあうので、石油製品や石化製品の需給・市況の悪化も原油価格の下落を促す原因の一つとなる可能性があるだろう。
商品市況が一方向に動き続けることはない。当面、天候不順や、米国経済の失速などがない限り、需給が崩れたり、市況が暴落したりする可能性は低いと思われるが、08年後半以降は、原油価格の下落の可能性をも念頭に入れた対応が必要になると思われる。 |