UBS証券会社 伊藤 敏憲
 

市況は需給と業界関係者の理解によって左右される
石油製品のマージン悪化の主因は規制緩和ではない

 石油産業関係者は「石油製品の国内市況は規制緩和の影響で悪化した」と説明することが多い。ところが、石油産業に関わる主な規制緩和は87年7月から92年3月、および、96年4月から02年1月にかけて実施されており、石油製品の市況が崩れ始めた94年度には規制・制度はまったく変更されていません。
 ガソリン市況悪化の要因と指摘されることが多い「96年4月の『特石法』撤廃による製品輸入の自由化」も、それ以前にスポット市況が輸入品のコストより割安な水準まで下落していたことを勘案すると、直接的な原因とは考えられません。
 また、「SS数の過剰」も市況悪化理由として挙げられることが多いのですが、SS数は95年以降一貫して減少し続けているにもかかわらず、マージンは下落したり上昇したりしています。これはSS数そのものが市況とはほとんど関係がないことを示唆しています。
 ではなぜ石油製品の国内市況は悪化したのでしょうか? 私は、石油業界が、石油精製設備の余剰や安売り量販型価格SSの大量出店などによって、市況が崩れやすい、あるいは、価格競争に陥りやすい環境を作り、それを修正できずにいるからだと考えています。

市況を立て直す鍵は業界関係者の理解
 ガソリンの90年代半ば以降のマージントレンドの変化のほとんどは需給によって説明できます。94年半ばにガソリンのマージンは下落に転じたが、94年は、設備規制が緩和された87年以降に実施された製油所の高度化と能力増強によって、国内の精製設備だけでガソリンの内需をほぼ満たすことができるようになった時期です。その後、需要の増加を上回るペースで精製能力の増強が進められた結果、需給ギャップが拡大し、過剰供給に陥りやすい状況となり、スポット(業転)市場での製品流通が拡大した結果、市況が崩れていったと推察されます。
 マージンが上昇した99年春から01年の年初、および、03年春から05年の年初にかけての時期には、石油精製設備の集約、中国などでの需要急増を背景にマージンが急拡大したパラキシレンやベンゼンなど石油化学製品への生産シフト、ガソリンと軽油のサルファフリー化の前倒し実施(05年1月)による脱硫能力の不足、輸出の拡大などによって需給ギャップが縮小していました。また、06年の春から秋にかけては製油所で火災事故や装置トラブルが多発していたこともあって供給能力が不足気味となっていました。
 一方、マージンが縮小傾向で推移していた01年春から03年の年初にかけては、設備集約がストップした中で精製設備の高度化が進められたため、ガソリンの供給能力と需要とのギャップが拡大し、また、05年半ば以降は原油価格の高騰などを背景に内需が減少に転じて、ともに需給が緩みやすくなっていました。
 これらの事実は、需給を引き締めやすい環境を作れば、市況をある程度立て直すことができるということを示しています。原油価格の高騰などによって石油製品の競争力が低下し他エネルギーへのシフトや消費の節約が広がっているという事情も勘案すると、精製・需給部門において、先ずは過剰生産を抑制し需給の引き締めを図ること、そして、設備の集約、需要の拡大が続くと見込まれる石油化学製品へのシフト、輸出の拡大などによって石油製品の国内供給圧力を抑制していくことが肝要と思われます。ただし、輸出に関しては、輸出先や日本に比べてコストが低いアジア・中東各国で製品輸出を念頭に入れた製油所の新増設が進められていますので、拡大し続けることができるとは思えません。内需と生産能力とのバランス化を図ることができるかどうかがポイントになると考えられます。
 販売部門においては、まず需要減少局面では安売り量販が業界全体に利益をもたらさないことを理解し、そして、業界をあげて石油製品の需要の維持・拡大に取り組むとともに、採算販売意識を徹底し、付加価値を生み出す能力が乏しい安売り量販店の展開を抑制し、油外収益の拡大に努める、といった対策を講じる必要があるでしょう。
 いずれにしても、業界関係者が、石油業界の窮状を正確に理解し、考えられ得る対策を講じ続けなければ、市況を立て直すことができないと考えるべきです。