UBS証券会社 伊藤 敏憲
 

ガソリン税狂奔の戦犯

 

 

暫定税率失効で大混乱が・・・

 延長法案が期限切れとなり4月1日にガソリン、軽油などの暫定税率が失効しました。ガソリン税は、国税の揮発油税(本則税率1リットル当たり24・3円、3月末までの暫定税率48・6円の揮発油税)と地方道路税(本則税率4・4円、暫定税率5・2円)によって構成されています。ガソリン税は、製油所から出荷される段階で課税される蔵出税で、石油会社の製油所の在庫は課税前の保税品、油槽所およびSSの在庫は課税品で、石油販売業者の在庫はすべて課税品です。一方、軽油引取税(地方税)は、特別徴収義務者(特約業者)が運営している約2万4千のSSの在庫は保税品ですが、特約業者から課税品を仕入れている中小販売店が運営している約2万のSSの在庫には地方道路税の軽油引取税(本則税率15円、暫定税率32・1円)がすでに課税されています。

 暫定税率の失効により、ガソリン税は53・8円(消費税込み56・49円)から28・7円(同30・135円)へ25・1円(同26・355円)、軽油引取税は32・1円から15円へ17・1円下がったことになります。

 そして、4月1日にSSの店頭では大混乱が起きました。全国各地で開店時から暫定税率で販売を開始するSSが登場したことから、ガソリンではSS間で30円前後の価格差が生じ、周辺のSSが次々に追随し、翌日以降、値下がりはさらに拡散しました。

 石油情報センターの臨時価格調査によると、3月31日にg152・9円だったレギュラーガソリンの全国平均価格(消費税込み)は4月1日に142・2円へ10・7円急落し、もっとも変化幅が大きかった北海道では154・2円から134・6円へ実に19・6円も値下がりしました。軽油も3月31日から4月1日にかけて全国平均で10・5円、北海道では14・4円値下がりしました。

 4月1日に販売されたガソリンのほとんどは暫定税率が課されていたはずで、石油業界には百億円単位の巨額の損失が発生したと推定されます。


 
あえて戦犯を名指し批判すると・・・

 最大の戦犯は民主党でしょう。弊害をまったく説明せず、暫定税率の失効でダメージを受ける業界はもとより、党内の慎重論にすら配慮せず、選挙戦術のみで暴走した対応は最大限に批判されるべきと思われます。

 次は自由民主党です。失効の恐れがでてからも、適切な対応を怠り、迅速な行動すらとることができていません。日銀総裁の空白期間を招いた判断といい、国政を空転させ続ける対応のまずさは、お粗末極まりないと思われます。

 公正取引委員会も本来の役割を果たしていません。公正取引委員会は、3月末時点では、給油所が暫定税率の課税分を含むガソリンを原価割れで販売すると独占禁止法の不当廉売に当たる可能性が高いとの見解を示していましたが、その周知徹底を図らずに、事実上、市況の崩落を放置しました。さらに、同委員会の事務総長が4月2日に行った記者会見で「仕入れ価格を下回る価格での販売が暫定税率を含む在庫に限られていれば、一時的なコスト割れで、ただちに不当廉売に該当するとは言えない」と発言し、さらなる市況の崩落を招きました。

 大半のマスメディアも批判されるべきでしょう。ガソリン税低下のメリットのみを吹聴し、弊害などの事実関係を正確に報道せず、世論を誤解に導いたからです。ちなみに、暫定税率が期限切れになると、石油化学原料用の国産ナフサ、農林漁業用の国産A重油に係る石油石炭税(1リットル2・04円)の還付措置も打ち切られることになりますが、このような不利な情報は2月頃までほとんど報道されていませんでした。

 石油元売の対応にも問題が多かったと思われます。石油元売は被害者ですが、元売全社が販売業者とともにリスク情報を共有化して、一致して対応策を講じていれば、損失を大幅に縮小できたと考えられるからです。例えば、新日本石油は、製油所からの出荷分については本則税率、油槽所からの出荷分については暫定税率が課税された在庫がなくなるまで暫定税率で卸売を続け、昭和シェル石油は4月1日から油槽所在庫分を含めて、即日、本則税率に引き下げ、出光興産・コスモ石油・ジャパンエナジーの3社は製油所在庫と油槽所在庫の税負担分を按分して一律22〜23円引き下げました。このように卸売政策一つとっても対応はばらばらでした。さらに、一部の元売は3月末まで計画配送を続けSS在庫を積み上げていました。暫定税率課税分を売り切るまでは価格を維持せよと「価格は安きに流れる」というマーケティングの常識すら理解していないと思われる不可解な価格指導を行っていたケースも見られました。系列販売業者の損失を拡大したこれらの行為は妥当とは思えません。

 石油連盟、全石連などの業界団体も被害者であり戦犯でもあったと考えられます。石油連盟、全石連ともに、その弊害が広く認知されるようになるまで、暫定税率の撤廃を要求していました。また、暫定税率期限切れのリスクが出てきてからも、効果的な対策を講じることができなかったからです。



本来とるべきだった行動は・・・

 現場の混乱を避け、消費者及び販売業者の公平性を確保するためには、税率の改定は小売段階で即日、一律実施し、暫定税率課税品を本則税率で販売したことによる差額分について還付措置をとるべきだったと、私は考えています。
 そもそも、私は暫定税率の撤廃は様々な問題を引き起こす可能性があるので、石油業界から積極的に求めるべきではなく、もし、求めるのなら期限切れを迎える前の年の夏の通常国会までに決議し、その後、十分な対策を講じるべきと提言し続けてきました。

 また、小泉政権下においてガソリン税や軽油引取税などの道路特定財源の一般財源化が話題になった際には、石油業界はこの提案に応じ、その財源の一部から、重要な産業である石油産業の健全化を図るための助成金を確保するように行動すべきと提言してきました。

 今回のトラブルは、事前に十分な準備を行っていればほぼ回避でき、直前に対処しても被害を軽減することができた『人災』だったと私は考えています。

 自民党は、ガソリンなどの暫定税率存続を含む法案の衆議院での再可決による成立を考えていると報じられています。しかも、最短で法案が再可決される時期は4月末、ゴールデンウィークの直前です。十分な対策を講じずに暫定税率が復活すると、石油業界はさらに損失を拡大することになりかねません。そして、復活時期を考えると、お客様に多大な迷惑をかけることになる「売り切れ」の続出を避ける対策も講じなければいけません。『人災』をこれ以上、拡大することだけは避けていただきたいと、切に願うばかりです。

 


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