㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



出光昭和シェル誕生



伊藤 敏憲


出光昭和シェルが19年4月に誕生


出光興産株式会社と昭和シェル石油株式会社が19年4月1日に経営を統合し「出光昭和シェル」が誕生します。出光興産と昭和シェル石油は、15年7月30日に経営統合に向けての協議を本格化させることで合意し、17年4月の経営統合実現を目指していましたが、出光の大株主の出光創業家の反対によって計画が大幅に遅延していました。昨年7月に創業家の一員で14.02%の議決権を握る出光正和氏との間で、役員2名の推薦、「出光」ブランドの継続使用、自社株取得、株主還元の実施などの条件を満たすことで、賛同が得られたことから、経営統合を実現できるようになったのです。


創業家との合意事項に従って統合会社の名称は「出光興産株式会社」となりますが、トレードネームは「出光昭和シェル」になり、この名前が一般に使われるようになると考えられます。



昭和シェル石油側に十分配慮された役員・幹部人事


新会社の代表取締役には、代表取締役会長に出光の月岡隆代表取締役会長、代表取締役副会長に昭和シェルの亀岡剛代表取締役社長執行役員、代表取締役社長に出光興産の木藤俊一代表取締役社長、代表取締役に昭和シェル石油の岡田智典則代表取締役副社長執行役員が就きます。


役員も出光興産と昭和シェル石油から同数選出され、やはり創業家との合意事項に基づいて、出光創業家の出光正和氏が非常勤取締役、顧問弁護士の久保原和也氏が社外取締役に就任します。


発表された統合会社の幹部人事を見ると、執行役員、部・室・店長などの幹部も、両社からほぼ均等に選出されています。また、需給、販売担当の常務執行役員には出光興産の新井裕冶上席執行役員が就任しますが、その配下で、販売部門を統括する販売本部長には昭和シェル石油の特約店の信頼が厚い昭和シェル石油の森下健一常務執行役員、需給部門を統括する需給本部長には昭和シェル石油の飯田聡常務執行役員が就くなど、実務面でも配慮されており、両社の石油事業部門の人員数の差を勘案すると、「対等の精神」に基づき、昭和シェル側に十分に配慮された人事になっていると評価できます。


なお、役員人事の中で特に注目されるのは、06年に当時45歳の若さで昭和シェルの取締役に就任し、その後、取締役専務執行役員、ソーラーフロンティアの代表取締役社長を歴任した平野敦彦氏が、経営企画・統合推進・渉外秘書部門を担当する常務執行役員に就任することでしょう。特約店を含めた昭和シェルグループ内にとどまらず、各方面から高く評価されている平野氏は、統合会社において昭和シェル関係者の求心力になると思われます。



出光創業家の株主総会における重要議案の拒否権はなくなる


経営統合は、出光興産が昭和シェル石油の発行済株式の全てを取得する株式交換の方式で行われ、昭和シェル石油の普通株式1株に対して出光興産の普通株式0.41株が割当交付されます。18年12月末時点の出光興産の発行済株式総数は2億800万株、昭和シェル石油の発行済株式総数は3億7,259万6千株で、出光興産が昭和シェル石油の発行済株式総数の31.6%に相当する1億1,776万1千株を保有しています。両社が3月末までに自己株式を追加取得せず、出光興産が保有する自己株式(18年12月末時点で1,048万7千株)がすべて割当交付に充当され、出光興産の保有株と両社の自己株式が全株消却される前提で計算すると、経営統合時の発行済株式総数は3億187万株になります。


出光創業家は18年9月末時点で出光興産の株式を合計5,925万7千株保有していますので、持株比率は現在の28.46%から統合時には20%を若干下回る水準まで低下することになります。出光は、大株主との間で出光昭和シェルが誕生してから3か年の統合会社の最終利益の目標金額を合計5,000億円以上、このうち50%超を株主に還元し、うち10%以上を自社株取得に充てるとしています。これによって、出光創業家の持株比率は21年度末に向けて高まっていきますが、仮に19年3月初旬時点の株価で自己株式を500億円余り取得して消却すると仮定すると、その比率は発行済株式総数の3%余りとなりますので、出光創業家の議決権比率は23%程度となります。出光創業家は、株式を追加取得しない限り、株主総会における重要議案の拒否権を失うと考えられます。



出光昭和シェルの経営課題


出光昭和シェルは、経営統合後3か年で年額600億円の効率化を目指す計画を公表しています。効率化の主な内容は、①原油調達15億円、②需給・海外 物流・販売290億円、③製造・調達205億円、共通90億円で、このほかに、販売ネットワーク拡大による競争力強化、両グループの強みの活用などを図ると説明しています。


石油事業の規模の差を考慮すると、出光昭和シェルの効率化目標はJXTGが17年度から3か年計画で取り組んでいる統合シナジーの目標額1,000億円とほぼ同じ水準で、その内容から見ても、この目標は十分に達成可能と思われます。ただし、JXTGは出光昭和シェルの中期経営計画期間に統合シナジーをさらに積み上げていくと予想されますので、出光昭和シェルの課題の一つは、効率化目標をどれだけ前倒しして達成し、その効果を積み増せるかになると思われます。


出光昭和シェルのもう一つの重要課題は、石油業界の収益環境の改善に取り組むことと思われます。経営効率化効果を積み上げるだけでは利益が増加するとは限らないからです。


JXTGは統合後3か年の利益目標を前出しして達成できる見通しですが、その要因は、業転及び商社ルートへの安値での製品供給を絞り込んだことで、需給が引き締まって業転市況が底上げされて、卸売マージンが拡大したこと、及び、販売子会社に採算販売を徹底したことで小売マージンが拡大したからです。出光昭和シェルが同様の対策を実施すると、石油業界の収益環境はさらに良くなると見込まれます。


なお、出光昭和シェルは、精製能力を削減する計画はないとしていますが、石化製品への生産シフト、製品輸出の拡大だけで需給バランスを維持することは難しいと考えられますので、中期経営期間内にも、精製設備の集約を含む、抜本的な需給対策が必要になる可能性があります。


また、石油製品の卸売・小売マージンを維持・拡大するためには、出光興産が系列SSの一部に採用しているコミッションエージェント(CA)方式を見直したり、昭和シェル石油が長年取り組んできたガソリンの出荷シェア拡大戦略も修正したりする必要もあると思われます。JXTGが成果を上げた経営合理化策を例えるまでもなく、需要減少局面では、販売量の拡大を志向するより、需給の引き締めと市況の底上げに取り組む方が業績を拡大しやすくなります。出光昭和シェルがどのような販売施策をとるかが注目されます。



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